コーヒー、それともお茶?
2016年7月24日 日曜日
日々の漢方診療をしていると、患者さんから普段口にする物について質問を受けたり、逆に私からアドバイスをすることがあります。もともと中医学には医食同源とか薬食同源という概念があって、食物にはそれぞれ固有の人体に及ぼす作用があるとされています。現代栄養学は食品に含まれるタンパク質、糖質、脂肪、食物繊維、ビタミンなどの栄養素や微量元素などの成分に注目しそれを応用しようとしますが、中医学の食養あるいは薬膳学は成分ではなく食品まるごとで人体にどのような効能を持つのかという点に注目しそれを応用しようとします。(食品の加工法や調理法によって性質が変わることも重視しています。)
コーヒーはお茶と同様にカフェインを含んでいて、眠気を覚ましにも飲む人が多いと思います。患者さんの話を伺っていると今時の京都で暮らす人々の朝食も御飯と味噌汁よりもパンとコーヒー派の人が多くなっているようです。
コーヒーの効能を中医学的に説明すると①昇発性、 ②燥湿性の2つを挙げることができます。②は「湿ヲ燥ス。」と漢文読みすれば分かるように湿気を除いて乾燥させるということす。これは利尿作用と関連していて体内の余分な湿気を尿から排出します。皆さんもよく経験されるのではないでしょうか。
しかし、漢方診療をやっていて臨床的により重要だなと感じるのはコーヒーの①昇発性です。何を昇発するのかというと漢方医学で言う「気」です。気を頭面部に昇らせるから、朝コーヒーを飲むと寝ぼけた頭(まだ気が頭に十分供給されていない状態)がすっきりするのです。これはコーヒーの活用です。朝は太陽が昇り出す時間帯であり、人の陽気もまた朝昇ります。健康な人はこの陽気の昇発が自然に起こるので寝起きもすっきりですから、あえて朝のコーヒーで気を昇発させる必要はありません。
患者さんの中には、もともと気が昇ってしまっている人います。このような方がコーヒーを過剰に摂取するとどうなるかというと、数学的にはベクトル和で考えてもらえば分かり易いのですが、気の上昇が一層酷くなります。気の上昇によって眩暈、耳鳴、頭痛などが起こっている方は、コーヒーで悪化します。(ただし、逆に気の陥没、すなわち気陥証でこれらの症状が起こる方もいます。こらへんが、漢方診療、あるいは中医学の弁証論治の奥深いところなのですが・・・)その場合には、気を降ろす効能のあるお茶(日本茶、紅茶、ウーロン茶など)やカモミールティーなどに替えることをお薦めしています。
アトピー性皮膚炎の患者さんで、特に顔面・瞼や頚部といった体上部に発疹が酷い方には、コーヒーを極力避けるようにお薦めしています。このような患者さんでは気の上昇による頭面部の熱証が起こっているからです。日常診療で頻繁に経験していることなのですが、アトピー性皮膚炎の患者さんの多くはコーヒーやチョコレート(カカオマス)が好きな人が多く、これらの摂取でしばしば発疹と痒みが悪化します。実はコーヒーの昇発性には別の一面があり、気を上(頭面部)に昇らせるだけでなく、気を外(体表部)に向かわせるのです。つまり、気を陰(下、内)から陽(上、外)へ向かわせる性質です。コーヒーやチョコは気を上昇させるだけでなく、気を体表(陰陽理論で言えば陰→陽の側に)に向かわせます。アトピーではただでさえ皮膚に炎症が起こって局所が熱化しているのに、そこに気が集まれば更に熱化して症状が酷くなるのです。ですから、コーヒー・チョコよりも日本茶(抹茶)・和菓子に替えることで、皮膚における気のベクトル和をゼロに近づけるのです。日本茶や抹茶のような非発酵系の茶は涼性があるため、皮膚の熱証を軽減する意味でも効果的ですので、一般には紅茶やウーロン茶よりも日本茶・抹茶をお薦めしています。ただし陽虚証の方(普段から腰や下腹部、下半身などの冷えを自覚しているような体質の人)では涼性の無い紅茶・ウーロン茶のような発酵系のお茶やほうじ茶の方が無難です。