ピアノは光を奏でる・・・
2011年1月3日月曜日
音は空気の振動が耳から入ってくるものなのに、心に光を感じる素晴らしいピアノの名曲名演奏を御紹介します。
一つはフジコ・ヘミングの弾くドビュッシーの「月の光」。月光は太陽と違って直接光ではなくて、穏やかな間接光です。漢方的に表現すれば陽光に対して陰光とでも言えるかもしれません。陽光は全てをあるがままに明らかに照らし出しますが、陰光は表には現れていない潜在する本質を浮かび上がらせるように思います。漢方の望診の仕方で、診察室の灯りを落として薄暗くして、患者さんの顔色を診る方法があります。明るいと見えない変化が、ボーッと浮かび上がることがあるのです。明る過ぎると見えない世界があるのです。(そういえば胸部レントゲン写真の微妙な陰影を診断するときに、フィルムの裾を持ってシャーカステンの白色光から離して、斜め方向から見るということを、放射線科や呼吸器科の医師は時々やっています。ちょっと似てるんじゃないかなと思います。)この演奏はそんな夜のみずみずしい空間を包んで、ひっそりと息づく生き物や木々や水の「命」を照らし出す月の光です。
もう一つは、グレン・グールドの弾くブラームスのインテルメッツォ(間奏曲)イ長調 作品118-2。これは月の光ではなくて陽の光です。しかしやはり直接光ではなくて、微かな風に揺れる木々の緑の間を通り抜けてきた穏やかな陽の光です。木陰のベンチに座って瞼を閉じて、瞼を撫でる光を感じているかのようです。
思えば空気の振動に過ぎない音楽が、人の心の中では光という振動との境界が無くなってしまう。物理学では考えられないことが起こるのだなあと思います。真に素晴らしい名曲と演奏は見えない世界を感じさせてくれます。