京都・漢方専門クリニック 

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理想の漢方処方

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2014年9月21日 日曜日

 昨晩、FMラジオでアーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるモーツァルトの最後の三つの交響曲(39番、40番、41番ジュピター)が抜粋で放送されていて、赤ワインを飲みながら久しぶりにこの曲を聴きました。アーノンクールの演奏は正直全く自分の好みではありませんが、中学時代からレコードで何度も聴いてきた曲への愛着は演奏のスタイルを凌駕してしまいました。そして何と言っても、41番ジュピターの第4楽章の終盤のフーガ(正確にはフガートというみたいですが)を聴く度にやはりこの曲は交響曲の最高峰の一つだと感じます。
LinkIconhttps://www.youtube.com/watch?v=Fcly8-RGhgw
(指揮者のジェフリー・テイトは医者から音楽家に転向した人です。これぞジュピター!と言いたいほどこのテイト指揮・イギリス室内管弦楽団の演奏が大好きです。終盤のフーガは力強いホルンから始まり弦楽器に引き継がれていきますから聴いてみて下さい。)

 バッハの曲もそうですが私はフーガが好きです。フーガは主題と呼応するメロディーが順次複数のパートで奏でられ重なって作られていて、且つ瞬間瞬間の重なった複数のパートの音が調和しながら進行していきます。つまり一つの音符は、一つのパートのメロディーの一部でありながら、他のパートの別の音と密接に関係している訳です。モーツァルトが最後の交響曲の最後の部分を目の醒めるような圧倒的なフーガで締めくくったのはなんとなく納得できます。フーガの名曲を聴いていると何もない空間からエネルギーが立ち上がってくる感覚を覚えます。ちなみにバッハは無伴奏ヴァイオリンのための三つのソナタを作曲していて、たった一つのヴァイオリンだけで奏でる素晴らしいフーガを作っています。
LinkIconhttps://www.youtube.com/watch?v=66Lq1nHRp24&list=PL8EF90D626F38B7C6
(ピアノやオーケストラと違ってヴァイオリンという楽器で完全な複数声部を奏でるのは物理的に出来ないのですが、バッハは重音奏法など作曲技法を駆使して、聴く人の脳の中でフーガになるように作っています。バッハの無伴奏ヴァイオリンは名演奏が多くてそれぞれに良さがありますが、やっぱりシェリングの演奏に帰ってきます。)

 なんで漢方医がこんなことを言うかというと、漢方処方もフーガ的だからです。一つの漢方処方には複数の生薬が使われていますが、ただの寄せ集めの足し算ではありません。君薬(音楽では主題に相当)に呼応して複数の生薬を配して、それらが互いに調和し、複義的な効能を発揮するようにしています。個々の患者さんには個々の症状と病態の複義的な病状がありますから、それに合わせて一つ一つの生薬に複義的な役割を担わせて漢方処方というフーガを奏でるわけです。音楽家は何百人、数千人の聴衆を前に演奏します。漢方医の場合は一人の患者さんのためのフーガを奏でるという違いはありますが。

 実はもう一つ、理想の漢方処方の大事な要素があります。それは簡潔さです。具体的には使用する生薬の数を必要最小限にまで絞り込むことです。病態が込み入った患者さんの治療ではどうしても漢方処方は薬の数が多くなりがちなのですが、理想はその患者さんの病態の中核を見極めてそこを突くことで、病態全体を良い方向に動かすのです。余分なもの(この判断が難しい…)を削って削ってまた削って最後に残ったものが大事で、実はそれが最も力強いのです。名曲で例えればベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、正にそのようにして出来上がった革命的な交響曲です。「ジャジャジャ・ジャーン」で始まる動機が形や楽器を変えながら執拗に繰り返されながら強烈な求心力を生み出しています。何度聴いても圧倒的な音楽です。
LinkIconhttps://www.youtube.com/watch?v=kGQW_54xwII
(カラヤン・ベルリンフィルのベートーヴェンは音の彫りが深く、特に第5番の演奏は寸分の隙もない緊張感が凄いです。)

 漢方医として全ての患者さんにこのようなフーガ的で簡潔な処方が書けたら理想だと思います。漢方界のベートーヴェンは傷寒論を著した張仲景(西暦150年頃〜219年)だと思います。傷寒論の処方はすばらしい。しかし天才が医者をしているわけではありませんから、傷寒論を自在に運用するためには漢方医は一生勉強と修練を続けていかなければいけません。