京都・漢方専門クリニック 

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夏ばて

夏ばての症状と治療を漢方医学の立場から概説します。

A307_105.jpg 夏ばては病気のうちに入らないかも知れませんが、漢方医学的に見るとやはり正常な状態ではありません。中医学には六淫(りくいん)という概念があります。風・寒・暑・湿・燥・火の6つを六気といいそれぞれ季節性があります。(風は春、寒は冬など)夏ばてに関係するのは「暑」あるいは暑気です。

 暑気そのものは夏の本来の天気(天の気)ですから異常ではありませんが、暑気が過剰になると暑邪(しょじゃ)となって人体に悪影響を及ぼします。夏ばてはこの暑邪によるダメージの軽いものと言えます。

暑邪の特徴は大きく2つ挙げられます。

①気と津液を消耗しやすい
 暑いと汗をかきますが、多量の汗をずっとかいていると津液が不足します。津液とは人体を潤す正常な水分のことです。単なる水ではありません。人体の恒常性を維持するための様々な成分を含んだ潤い物質です。この津液が失われると傷陰という病態になり、口渇、煩燥、手足煩熱、不眠といった症状が現れます。一方で、汗と一緒に気も漏れ出してしまいますから、気虚という病態も同時に起こることになります。気虚になると倦怠感が起こるようになります。傷陰と気虚が同時に起こりますから、これを気陰両虚といいます。これを治す基本処方は生脈散(人参、麦門冬、五味子)です。エキス製剤にはなく煎じ薬でしか処方できませんが、生脈散をもとにした加味方で清暑益気湯という処方があり、これは健康保険が使える医療用エキス製剤にもあります。単純な夏ばてでは、この清暑益気湯でほぼ対応できます。屋外や暑い場所での運動や作業をしなければいけないときには、熱中症予防に予め服用しておくことも有効です。

②湿を伴う
 暑気は湿気と火気が合体したような夏特有の外邪です。陰陽学説(木火土金水)では湿気は土に属しますが、人体で土に属する臓腑は脾胃、すなわち消化器系です。ですから、湿気の過剰は脾胃に悪影響を与えやすいのです。みぞおちのあたりがモヤモヤしたり、食欲低下、下痢を起こしやすくなります。すると、食べ物から気が作られにくくなりますから、気虚に拍車がかかるようになるのです。このようなときには平胃散や茯苓飲といった処方で脾胃の湿気や水の停滞を改善させます。

 また、昨今は逆に夏の暑い時期に、冷たいものの飲み過ぎ、過度の冷房で体を冷やしすぎる人もいます。これは①とは逆の病態で、陽気を損ねますから陽虚という病態になります。陽虚でも慢性的な倦怠感がでます。現代人の夏ばての一つのパターンです。特に、冬に寒がる人はもともと陽気は盛んではありませんが、夏の冷房はほどほどにして、飲み物は冷たいものを控えるようにしなければ陽気は回復しませんから、倦怠感はなかなか改善しません。患者さんによっては夏に温める漢方薬を使わないといけないのです。