京都・漢方専門クリニック 

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第34話 中国のホテル 〜水回りに見る風土の違い〜

2006年11月24日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学34・水事情.jpg 今月初め、成都中医薬大学での自己研修のため、中医学研究所の薬剤師らとともに中国四川省の省都である成都に行ってきました。

 成都は中国内陸部の発展を象徴する中核都市であり、デパート、ホテル、病院、マンションなど巨大なビルがたくさん建設されています。破竹の勢いで発展している中国の姿を目の当たりにしました。

 私たちが宿泊したのは市の中心部の繁華街にある五つ星の高級ホテル。すぐ隣に日本の有名百貨店が進出し、高級ブランドの商品が並んでいました。ホテルのロビーに入ると直径一㍍を超える巨大な柱に金ピカの装飾が施され、「壮麗さ」という点では日本の一流ホテルをも凌駕するほどです。ホテルの朝食のバイキングは中華か洋食で、毎晩の中華料理に飽きて、洋食を食べてみるとこれまた日本と遜色なし。

 ところが、中国のホテルは大体水回りがよくありません。ホテルによっては蛇口から黄色い水が出てきたりする所もあります。洗面台の栓や、浴槽のタブを抜いてもなかなか水が抜けていきません。朝、時間がなくて急いで洗面台で顔をすすぐのにも、水が抜けていくまで結構時間がかかります。そんな時、日本の格安ビジネスホテルの方がずっと快適だなと感じてしまいます。

 日本人は家を建てたり、マンションを選ぶときには水回りに気を使います。きれいな水に恵まれた日本だから、水がよどむことは家の雰囲気がよどむことのように感じてしまいます。そんなところから、使用後の水がスーッと抜けていくような配水管の施工技術にもノウハウがあるんだろうなということが、外国のホテルに泊まるだけでもよく分かります。

 「水」は五行(木火土金水)の一つでもあります。五行説における水にはいくつかの性質があります。下に流れていく性質(流動性)、自在に形を変える性質(融通性)、すき間に染み込んで見えなくなる性質(隠匿性)です。自在に流れ動いてこそ「水」は生きます。水が流動性と融通性を失って停滞すれば、「湿邪(しつじゃ)」となって人の健康を害したり家屋を腐らせます。

 海、川、水田の日本は湿気の風土。だから、日本人は家屋の水回りには特に気を使うのではないかと漢方医の私には感じられるのです。外見の壮麗さよりも、目立たない部分にこそ気配りをする日本人の感性や伝統文化は、このような「水」への配慮からも培われてきたような気がします。