京都・漢方専門クリニック 

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第29話 漢方薬 〜いまだに多い誤解〜

2006年10月20日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学29・誤解.jpg 最近のアンケート調査では、西洋医学の医師を含めた八割近くの医師が多かれ少なかれ日常診療の中で漢方薬を使ったことがあるとの結果が出ています。私のような漢方専門医は少数ですが、この結果は既に漢方薬が日本の医療の中で身近なものになっていることを示しています。

 ところが、世間にはまだ漢方薬への誤解があるようです。「治療効果が現れるのに日にちがかかる」というのもその一つです。漢方処方には短期戦を意識したものと、長期戦を意識したものがあります。短期長期の両方を意識する場合もあります。言葉を換えれば戦術と戦略の違いです。それは個々の患者さんの病状によって異なってくるものです。

 例えば、正気の衰えのない患者さんで、風邪や寒邪や湿邪といった邪気の存在が病気を起こしているような単純な実証(じつしょう)の場合。これは中医学的には病態が単純ですので、多くは数日で効果が表れます。早い人は翌日から改善してくることもまれではありません。

 長期戦が必要になるのは、正気が衰えていて、なおかつ瘀血(おけつ)や痰飲(たんいん)といった長年の邪実が存在するという虚実挟雑(きょじつきょうざつ)の患者さんです。このときには根気よく数カ月から数年にわたって漢方薬を服用して、少しずつ快方に向かっていくのです。

 しかし、時間をかけて治っていくということは、小手先の治療ではなく、五臓六腑(ごぞうろっぷ)と陰陽気血の調和を取り戻していくということですから、正しい養生を心がけている限り、再発して元に戻る可能性は非常に少ないのです。

 患者さんは皆、これからもそれぞれの人生を歩んでいくわけですから、五年後十年後に元気でいられることを、漢方医は常に考えているものなのです。効果が早ければ良いというのではありません。心身の調和と恒常性を取り戻すことが中医学の特長なのですから。

 漢方薬に用いる生薬は一部国内産のものがありますが、コストなどの問題で多くは中国などからの輸入に頼っています。残留農薬のチェックや指標成分の測定などを行い、検査に合格したものだけが初めて「医療用」の生薬として健康保険での使用が認められます。民間薬のように気軽に栽培できるものではないのです。

 品質確保のために生薬メーカーは栽培技術や加工技術に工夫を凝らし、中国の栽培の現場に行って技術指導や監督をするなどの努力を行っています。患者さんが漢方薬を口にするまでには、栽培農家を含めた多くのプロの手がかかってきているのです。