京都・漢方専門クリニック 

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第21話 切診とは 〜手で触れて調べる〜

2006年8月25日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学21・切診.jpg 四診の最後は切診です。医師の手で患者さんに触れて診察することを切診といい、脈診、腹診、切経(ツボを触れていく)などがありますが、脈診は特に重要です。脈診は本来「脉診」と書きます。脉という文字には脈を診るための技や知識の意味が含まれています。昔から多くの名医が脈学書を著しました。実に奥深い世界で習得は容易ではありません。

 ここでは患者さんから時々相談を受けることについて書きたいと思います。「先生、私、脈が無いんです!」。今まで何人も相談を受けました。ほとんどが女性です。本当に脈が無かったら死んでいるはずで、でも生きているんだから、脈が無いということは一体どうしたことなんだろうと。

 ごくごく一部の患者さんを除いて、脈が触れないことはありません。触れ方に問題があるのです。「じゃあ、ちょっとご自分で脈を取ってみてください。と言うと、右手の親指を左の手首の橈骨動脈あたりに当てて、「あー、やっぱり無い・・・」とおっしゃいます。「どれどれ」といって私が脈を取ろうとすると、「あっ、そんなふうにするんですかあ。」そうです、ちょうどバイオリン奏者の左手のように親指を相手の手首の甲側に軽くあてがって、中指→人差し指→薬指の3本の指を並べていきます。このときに中指の位置が重要で茎状突起という手首の関節の外側の隆起のやや内側にもってきます。それに人差し指、薬指をあてがい、3本の指を少し立てて診ます。一般に親指は感覚が鈍いのです。

 昔、医学生時代の解剖学の講義での話し。解剖学の教授が「君たち、自分の脈を取ってみてくれよ」と仰ったところ、ほとんどの学生が親指をあてました。「君たち、医学生か?」と皮肉られてしまいました。何を隠そうこの私も親指を当てた学生の一人でした。偉そうなことは言えません。一般の人は知らなくて当然なんです。

 さらに漢方の脉診では、挙(軽く指を乗せるだけ)、按( 骨に達するまで押さえ込む)、尋(挙と按の中間)の3通りの圧力のかけ方をします。「脈が無い!」とおっしゃる患者さんの多くは、脈が深く沈んでいて「按」ほどの圧力をかけて始めて触れることができます。もし、それでも触れない場合、手をひっくり返してみて、本来の脈の位置の裏側(甲側)を軽く触れてみてください。きっと触れるはずです。これは反関脈といってホクロかエクボほどのものです。病的な意味は全くありませんのでご安心を。