京都・漢方専門クリニック 

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第19話 聞診とは 〜心身の変調を声で分析〜

2006年8月11日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

第19話.jpg 遠く離れて暮らす家族や友人の声を電話で聞いて、「あれっ、何か元気ないなあ」と思ったりしたことはありませんか?「私は元気だから大丈夫。お母さんこそ血圧に気をつけてね。」と言われながら電話を切った後、なんとなく心配になったり・・・。顔を合わせていなくても、声で相手の心や体調の変化を感じ取る身近な例です。漢方の四診(望聞問切)の一つ聞診は、こんな感じで皆さんも普段からやっています。

 聞診は患者さんに質問を投げかける問診とは異なります。問診の情報源は患者さんが話す内容ですが、聞診では患者さんの発する声調そのものなのです。(喘息の喘鳴や咳の音を聞くのも聞診に含まれます。)声紋分析装置の無かった時代に、どのようにして診断に活用したのでしょうか。

 五行説は自然界や人体の現象を木火土金水という五つに分類し、その関連を論じる古代中国の自然哲学です。日本語の五十音に当てはめると、カ行は角音(牙音)といい肝木に、タ行ナ行ラ行は徴音(舌音)で心火に、ア行ヤ行ワ行は宮音(喉音)で脾土に、サ行は商音(歯音)で肺金に、ハ行マ行は羽音(唇音)で腎水に対応します。会話の中でどの音にアクセントがあるのか、あるいは逆に音が曇るのか、それを聞き分けることで木火土金水に対応する肝心脾肺腎のどこに病があるのかを類推する診察技術です。

 たとえば、肝気鬱結といってストレスが溜まって肝に気が鬱滞しイライラしてくると、「そうなんですカ」のカが強く発音されますが、これなんかは日ごろよくあることですね。また、舌の動きが悪いとタ・ナ・ラ行が聞き取りにくくろれつが回りにくいような声調になり、五臓のうちの心の病証を疑います。

 ところで、漫才コンビのボケとツッコミじゃ、ボケが宮音(土)で、ツッコミが角音(木)のコンビが多いと思います。角音は牙音ともいい、噛み付きかかるような甲高い声で「コら、あカん!」とカ行にアクセントがついて高飛車に出ます。これは伸長という木の属性です。一方、ボケは「ワしの、かアちゃんにユうてくれヤアー」とア・ヤ・ワ行の間延びが特徴です。五行には木→火→土→金→水の順に生み出し促進する相生関係と、木→土→水→火→金の順に抑えつける相克関係の二つの関係で、五行のバランスが保たれています。アクセルとブレーキの関係に似ています。木と土は相克関係にあります。これは木が土を抑えつける関係で、ちょうツッコミとボケの関係と似ているでしょ。土は受容の属性から「やっぱ、アかんかァ」としょげたり、変化の属性からのらりくらりとツッコミをかわします。ここら辺が両者の関係の妙というところでしょうか。漢方的漫才コンビ論になってしまいました・・・