京都・漢方専門クリニック 

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第22話 体の痛み 〜気血の停滞が要因〜

2006年9月1日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学22・痛み.jpg 漢方診察をしていると実にさまざまな症状の患者さんを診察しますが、意外と一番多いのは痛みの患者さんです。

 高齢者が多い地域事情もあります。腰やひざなどの運動器の痛みに対して消炎鎮痛剤の内服や座薬、湿布を長年使っているのだが、なんとか漢方薬で治してほしいということで受診される方が多いのです。

 痛みに関して有名な格言があります。「通則不痛、不通則痛」(通じれば痛まず、通じざれば痛む)。気血が通じていたら痛まない、気血が通じなくなるから痛むのだ!という意味で、痛みに対する中医学の基本的な考え方を示しています。

 例えば、ひざの関節の内側が痛む場合、この場所で気血を停滞させている何らかの要因があるかというと、寒邪(冷えの邪気)・火邪(熱の邪気)・湿邪(湿気の邪気)・風邪(風邪の邪気)といったものや、瘀血(血の停滞)、痰飲(水の欝滞が変化したもの)などです。これらを総称して邪気と呼んでいます。多くの場合、患者さんの正気の不足に乗じて邪気が悪さを働くのです。

 治療の基本は第一に邪気の種類、程度、部位を判別して除くこと、第二に患者さんの正気不足の状態を見抜いて不足を補うことになります。邪気が一種類で日が浅い場合は早く治ります。邪気が複数くっついて複合邪気になり、なおかつ正気の不足がある場合にはそう簡単にはいきません。しかし、数年以上経過したしつこい痛みやしびれに対しても、多くの場合は漢方薬で徐々に軽減していきます。

 交通事故のむち打ち症(頸椎ねんざ)についてお話しましょう。事故に遭った直後は何ともないのに、数日から数カ月、時には数年経って不快な痛みがおこってくることがあります。この時間差は何なのでしょうか?中医学的には外傷性瘀血が原因です。瘀血は体の中の血の停滞です。ミクロレベルで起こるもので、レントゲンやCT(コンピューター断層撮影)でも見つかりません。

 瘀血はさまざまな原因で起こるのですが、強い外傷はその一つです。事故で首などの受傷部位に瘀血ができますが、若い元気なうちはそれなりに気血は勢いがあってなんとか通じますから痛まないのです。老化や疲労で体力が衰えてきたり、寒冷や運動不足、ストレスで気血が滞りやすい環境になると、事故で生じた瘀血の影響が現れてきます。
 事故に遭った患者さんには整形外科的な治療と並行して、生ものと冷たい飲み物を控え、活血薬と言われる漢方薬を服用してもらっています。私自身の事故の経験からもまた、患者さんの治療経験からも、その方がむち打ち症が残りにくいからです。