京都・漢方専門クリニック 

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第2話 漢方薬の効果 ~ビギナーズ・ラック~

2006年4月14日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学2・ビギナー.jpg 医者になって三年目に派遣されていた徳島県立海部病院では、毎週一回、内科の全入院患者さんへの院長回診がありました。Y院長の丁寧な聴診や触診、ベッドサイドで頂くアドバイスはまだ駆け出しの血気盛んな内科医であった私には大変勉強になりました。前回の記事の、院長の一言に刺激されて私はある日本漢方の書籍を買い求め独学を始めていました。

 そんなある日、Nさんという84歳の女性が激しい呼吸困難を訴えて来院しました。レントゲン検査では右肺炎の影がありましたが、若い頃に結核を患い現在は喘息の治療も受けているとのことで、肺は全体に傷んでいました。口から気管に管を挿入して人工呼吸器を装着し、抗生物質や点滴の治療を行い、かなり厳しい状況でしたが3週間後にはなんとか人工呼吸器から離脱することができました。 

 まだ医者の経験の浅かった私は心の中で「よしやった!」と喜びました。しかし、Nさんは微熱と食欲低下が続いて衰弱が激しく一人で寝返りもうてない状態でした。このようなご高齢の慢性呼吸器疾患の患者さんは、寝たきりで食事も摂らなければ、いずれ肺炎の再発や褥瘡による敗血症を起こして亡くなってしまうことが多いのです。

 ある朝Nさんを診察すると、右の肋骨の下に緊張と圧痛があり、咽の渇きと口の苦さを訴え、脈は弦のように突っ張っています。これは、たまたまその時勉強していた漢方医学書に書いてあった少陽病(しょうようびょう)という状態かもしれないと感じました。そこで小柴胡湯という漢方薬を頑張って服用してもらいました。すると数日で解熱して病院食を全部食べ、一人で病棟を歩けるようになり、9日後には退院できてしまったのです。ビギナーズ・ラックとはこんなものでしょうか、漢方薬の効果にわれながら驚きました。

さて、翌週になり院長回診の日がやってきました。
 院長「やっぱり、あの患者さんは亡くなられましたか。」
 私「いえ、先週退院されました。」
 院長「エッ、退院した?」
その時、院長の驚きの表情が満面の笑みに変わっていくのを見て、「ひょっとすると、漢方はもっと力を入れて勉強する価値がある医学かもしれないぞ。」と考えるようになったのです。
 しかし、漢方医の道はそう甘くはありませんでした・・・。