京都・漢方専門クリニック 

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第33話 中国の診療現場 〜“中西医結合”で治療向上〜

2006年11月17日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学33・中西医結合.jpg 今月の一日から五日まで、中国四川省に行ってきました。四川省と言えばパンダが有名ですが、今回は成都中医薬大学の付属病院での研修でした。

 十年前から、北京、安徽、広州の専門施設を訪れて医療の現場を見てきました。この間の中国の発展には目を見張るものがあります。テレビで紹介されるのは大きなビルや繁華街の風景が多いのですが、大学病院の新病棟は衛生的で居心地のよさそうなものになってきています。

 病棟の医師数にもゆとりがあって、医師と患者さんがあたかも親戚(しんせき)か友人のように気さくに会話しています(看護師さんは日本の方が優しそうでしたが…)。おそらく、診察時間に余裕があるのだと思います。

 先端医療技術の分野では日本が優れているのかもしれませんが、マンパワーを含めた総合点では、私が見た中国の医療現場の方が日本より豊かなのではないか、少なくとも入院している患者さんの視点に立てばそのように映りました。

 中国では「中西医結合」と言って、中医学と西洋医学を併用して治療効果を上げることがごく普通に行われています。例えば、今回研修を受けた内分泌科病棟では糖尿病の血糖コントロールにはインスリンなど西洋医学のお薬を使用しながら、糖尿病合併症の腎障害や足の潰瘍(かいよう)壊死(えし)などに対しては漢方薬を処方し、高い治療効果を発揮していました。

 ある高齢の男性患者さんは、持病の悪性リンパ腫で化学療法を受けて体力が低下している上に、糖尿病が長く動脈硬化が進行し、右の膝(ひざ)下から足にかけて皮膚がただれて腐り、残った皮膚の部分も黒ずんでしまいました。糖尿病性の足潰瘍壊死の状態で、中医学では脱疽(だっそ)と言います。

 入院当初は潰瘍が膿(うみ)に覆われていて病室に悪臭が充満したそうです。外科医は膝から下を切断するしかないと考えたそうですが、高齢と持病で衰弱している患者さんが右下肢を失えば、手術後のリハビリもできずにかえって命を縮めるだろうことは容易に予測されます。

 そこで、インスリンによる血糖コントロールを行いながら、漢方薬で足の化膿(かのう)性炎症を鎮め、その後、下肢の血行を改善してただれた皮膚組織の再生を促すような漢方処方に変更することにより、下肢を切断することなく治癒に向かっていたのです。

 西洋医学と中医学のいずれにも拘泥(こうでい)せず、患者さんの健康にとって最大の利益をもたらすことを目指して、診療と研究が行われているのです。