京都・漢方専門クリニック 

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第3話 漢方を独学 ~1時間脈をみる医者?~

2006年4月21日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学3・脈診.jpg 医者になって四年目、剣山麓の僻地診療所に派遣されました。医者は私一人。エコー(超音波検査)、胃カメラも一人でこなさなければいけません。初めて医者一人で勤務するプレッシャーを感じました。先の病院で始めた漢方の勉強も続けました。漢方専門書の他、テープ教材で毎晩勉強し、診療に役立てようとしました。ところが、空振りの連続。たまに、よく効く患者さんもいましたが、大部分の患者さんは改善なし。やっぱり、先の病院での経験はビギナーズ・ラックでした。ここで、「やっぱり漢方は効かないな。」とあきらめてしまう医師が多いのですが、効かないのは漢方がダメなのではなく、自分が勉強不足なのだと考え独学を続けました。

 漢方の重要な診察法の一つに脈診があります。脈拍数や不整の有無だけを診るのではなく、二十七種類の脈の状態を弁別して、人差し指、中指、薬指を当てている部位それぞれの脈の違い、軽く指を置いたときと押さえ込んだときでの違いを判別して、五臓六腑や気血の変調を推察していくという診察法です。例えば、弦脈(げんみゃく)というのは弓の弦が張ったような縦方向に緊張感のある脈で、ストレスや気滞という気の流れの停滞がある人によく現れます。渋脈(じゅうみゃく)というのは古典に「短刀で竹を削るが如し」とあるように脈の往来がしぶって柔軟さに欠ける脈で、瘀血(おけつ)という血の停滞がある人によく現れます。脳梗塞の患者さんの麻痺側の脈にもしばしばみられます。

 当時、脈診を教えてくれる人など周りには誰もおらず独学しかありませんでした。ひたすら本を読み頭にイメージを描き自分や患者さんの脈に触れました。はじめはただ脈がトクトク触れることしか分かりません。何とか違いを感じ取ろうと、目を閉じてじっと意識を集中して患者さんの両手の脈をとること3~5分・・・。ふと見ると、患者さんが怪訝な顔をしています。それはそうです。そもそも、今時の医者に何分間も真剣な顔して脈を取られるなんて患者さんにとっては薄気味悪いことだったに違いありません。そのうち診療所の周辺では「一時間も脈をみる医者」という噂がたってしまいました。患者さんにとっては3~5分が1時間にも感じられたのでしょう。

 今、脈診は私の診察には欠かすことができません。脈診が出来るようになったのは昔診させていただいた患者さんたちの御蔭です。診察方法は脈診だけではありません。舌診や腹診、切経(ツボを触っていくこと)など五感を駆使するものが他にもあります。そして、独学に限界を感じ、週末東京に通って中国の中医師から直接学ぶことになったのです。