京都・漢方専門クリニック 

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第32話 お国が違えば・・・ 〜花見に来てトラに!?〜

2006年11月10日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学32・あちゃ.jpg インドのおてんば娘こと、留学生のPさんには楽しい思い出がいっぱいあります。

 ある時、Pさんにバングラデシュ人の研究者から電話が掛かってきました。彼女は受話器を受け取ると、ヒンズー語に英語の研究用語が入り混じった会話の合間に「アチャ、アチャッ・・・アッチャー」と変わった声を発しています。日本語の「はい」とか「うん」に相当する相槌が「アチャ」であることを後になって知ったのですが、受話器を片手に「アチャ、アチャッ」と言っているインド人女性の姿が、なんとなくヌンチャクの代わりに受話器を持ってカンフーをやっているように見えて、私は可笑しくて必死で笑いをこらえていました。

 桜の季節、私と世話好きの大阪人Zさんは、インド人のPさんと同じく中国人留学生のKさんを誘って徳島大学の裏山の眉山にドライブに行くことにしました。異国の地でずっと研究室に篭っていては気分が滅入るだろうから、二人に日本の春を楽しんでもらおうとのZさんの発案でした。日本人男性2人、インドと中国の女性2人のなかなか新鮮な組み合わせのドライブでした。Zさんの運転で、眉山の山道を走ると満開の桜と春風が気持ちいい・・・と思いきや、Pさんの表情がこわばっています。Zさんが英語で「車酔いか?」と尋ねると”No, I’m scared.”(ちがう、私怖い。)との返事。私もZさんも中国人のKさんも彼女が何を怖がっているのかさっぱり分かりません。

「この山には盗賊はおらん。安心しろ。」とZさんが英語で彼女の不安を除こうとしました。それでも”No, No...”とPさんの不安は治まりません。“Then, what are you afraid of ?”(じゃあ何が怖いの?)とZさんが彼女に尋ねました。

すると彼女は“Tiger...(トラ)”と弱々しく答えました。私もZさんも想定外の答えに大爆笑。中国人のKさんも覚えたての日本語で「トラ?、いないいない。」とお腹をかかえて笑っています。なんとPさんは眉山にトラが現れて、花見に来た自分たちを襲うかもしれないと本気で恐れていたのです。しかし、インドでは山に入ると本当にトラに襲われることがあるのだということを彼女から聴きました。

 国が変わるとこうも違うものかと。しかしまた、外国の人とのざっくばらんなお付き合いはこうも楽しいものかと感じたのです。