京都・漢方専門クリニック 

【健康保険適応】 

 診察予約 075−352−3737


当院は中医学を専門とする日本人の漢方専門医が保険診療を行っています。

第10話 夜更かし 〜「肝腎不足」で悪循環に〜

2006年6月9日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学10・夜更かし.jpg夜更かしについてお話ししましょう。

 中医学は時間を重視します。時間とは陰陽の交流そのものです。一日では昼夜、一年では四季の変化は、太陽と大地という陰陽の消長が反映されたものです。その変化の中で人は寝起きし、休んだり活動したり、衣替えをしています。これを正しく行うことが陰陽にのっとった生活です。

 一日の中で、太陽が頭上にある昼間は陽が極大で陰は極小です。五臓の中で陽気の最も強い「心」が活動する時間です。「心」という臓は、考える、話すなどの思考活動のほか、血の循環を担当し肉体労働を支えます。

 では、その全く反対の夜はどうなっているかというと、太陽は地球の反対側ですので陽は極小で陰が極大となっています。五臓の中で陰気の最も強い「腎」が活動する時間です。「腎」は収蔵といって体力を蓄える蔵のような役割です。

 「心」と「腎」では働きの方向性は正反対です。もし夜更かしして、テレビを見たり、食べたりと昼間のように活動をすると、「腎」は本来の収蔵の働きを発揮できません。
 朝夕は陰陽が半々ですが、意味が違います。朝は太陽が昇ろうとしている時間で、陽気は増え、陰気は減ってきています。夕方はこの逆です。朝は陰中之陽の「肝」が働く時間です。「肝」は「筋」をつかさどっています。「筋」とはいわゆる筋肉ではなく腱(けん)を指します。「肝」は「筋」に指令を発して起き上がったり声を発するなど運動を開始させる臓です。

 ですから、夜更かしで「腎」が弱まると、朝になって「肝」にバトンタッチができないため、朝、布団から出られないし朝のあいさつも出てこないのです。昼近くになって太陽が高くなり、「心」の機能が高まってきてやっと人並みの活動ができるようになります。

 さてこれが、一日や数日の夜更かしならまだいいのです。何年も何十年も続くとどうなるでしょうか。肝腎不足という病的体質になってきます。代表的な症状が不眠です。夜になっても目が冴えて眠れないのです。だからつい夜更かししたり、寝る前に飲み食いしたりして、ますます「腎」を損ねます。するとさらに肝腎不足が悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。

 こうなると、いずれ「肝」と「腎」がつかさどる部位にガタがきます。「肝」が弱ると情緒不安定、眼精疲労、関節がこわばる、女性では月経異常などが現れます。「腎」が弱ると老化症状が早まり、腰痛、腰が伸びない、目のかすみ(白内障など)、耳鳴りが現れ、女性では閉経が早まります。前回お話しした、父母からの「精」は「腎」に蓄えられますが、夜更かしによってその「精」を浪費したからなのです。