京都・漢方専門クリニック 

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第12話 朝の食事 〜和食で肝腎を補強〜

2006年6月23日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学12・朝食.jpg 前回に引き続き朝の養生のお話です。今回は朝食を取り上げます。

 朝は一日の生活の始まりですから、朝食は少なめで良いのです。三度の食事でしっかりとるべきは昼食です。五臓(肝心脾肺腎)のうち消化をつかさどる脾が活発になるのが、未の刻が始まる午後一時ごろだからです。昼食後にだるくなったり眠くなったりする人は、体質的に脾が弱っています。

 前々回、夜更かしは肝腎を弱めるというお話をしました。実は朝食で肝腎を補強することができます。そのメニューをご紹介しましょう。みそ汁、骨付き小魚(ちりめんじゃこ、干物など)、のり、梅干し一個にご飯が基本です。なんのことはない、典型的な和の朝食です。ところが、これが実に理にかなっています。

 五行説には五味(酸苦甘辛鹹)があり、肝は酸、心は苦、脾は甘、肺は辛、腎は鹹(海の自然な塩味)と五臓に対応しており、それぞれ適量摂取することでそれぞれ対応する臓を強化できます(取り過ぎは逆にその臓を弱めるので注意が必要です)。

 みそ汁(大豆)と小魚の骨は腎を強化します。また、小魚やのりといった海の味は鹹ですから腎を強くします。夜は腎が活発になって収蔵に働いて朝は一休みの状態ですから、朝は腎を補強するには最適の時間です。酸っぱい梅干しは肝を補います。全体として肝腎を補う布石となっているのです。

 漢方の処方せんと考え方は同じで、生薬を使うか食材を使うかの違いです。面白いもので中医学の目で見ると、日本人の生活の知恵の素晴らしさが再認識できます。

 さて、こんな質問が出そうです。「みそ汁の代わりに豆乳ではいけませんか?」。実は大豆は加工方法によって性質が変わります。豆乳の状態では寒性が強いのです。みそ汁や温かい豆腐は大丈夫です。朝は太陽が昇り始めるように、人の陽気も上昇中です。朝、豆乳や冷たい飲み物を飲むと、陽気を抑えてつけてしまい、昼間の活動性が低下したり、痰飲という病理産物をつくってしまうのです。
 ちなみに、冷ややっこも寒性を持っています(だから、おろしショウガやネギなど温性の薬味を使って寒性を中和するのですが…)。豆乳も冷ややっこも夏の昼食時をお勧めします。
 もう一つ出そうなのが、「梅干しの代わりに新鮮なフルーツではいけませんか?」という質問です。フルーツは酸味というよりも甘みが主体ですから、脾が活発になる昼食後に季節の果物を適量取るのが良いのです。

 お分かりいただけましたでしょうか?成分栄養学とは異なる時間栄養学の世界があるんですよ。