京都・漢方専門クリニック 

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第9話 天地人 ~人と五臓の成り立ち~

2006年6月2日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学9・天地人.jpg ちょっと難しい内容ですが、中国伝統医学の源流のところからのお話です。
老子の道徳経の中に、「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。」という言葉があります。とても象徴的な表現ですが、生命がこの世に生まれる仕組みを説いているのです。「道(タオ)」とは宇宙の根本原理です。そこから一の混沌が生み出されます。宇宙のビッグバンで生じたさまざまな物質やエネルギーが入り混じった状態で「太極(たいきょく)」といいます。

それが、軽いもの(陽)と重いもの(陰)、二つの両極に分かれていきます。軽い物質は太陽のような恒星の光となり、重いものは地球のような惑星の大地となります。つまり、二の「天地」が生まれます。天からは光が降りそそぎ、地から太極図.jpgは水蒸気が昇って、天地の陰陽二気の交流が始まります。この交流の中で三の生命(人)が生まれます。そして、生命は酸素、二酸化炭素、たんぱく質、炭水化物などの物質のほか、科学文明など万物を生じるのです。

 この老子の考えは人体にも関係しています。精子と卵子の結合したものを「精」と呼びます。これが人体の物質的な陰の基盤です。そこに天からは非物質的な陽としての「神」が合わさり、人としての精神活動が始まると考えているのです。ですから、生命とは「精」と「神」という陰陽二気の交流であり、死とは陰陽の分離です。父母からの精は「腎」に、天からの神は「心」に宿ります。陰の腎は大地に、陽の心は天に相当します。西洋医学でいう解剖学的な腎臓や心臓とは異なりますから、誤解しないようにしてください。

 この心(陽)と腎(陰)の交流の過程で、陽の中でも陰の性質を持った「肺(陽中之陰)」と、陰の中でも陽の性質を持った「肝(陰中之陽)」が生じて、さらにその中心、人体のど真ん中に「脾(ひ=消化器系統)」が生まれます。この肝心脾肺腎を「五臓」というのです。これは、古代中国の自然哲学である五行説(宇宙自然は木火土金水の5つの要素から構成されているという考え)とも関係しています。

 五臓のバランスを調和させることが養生の基本です。どれか一つを高ぶらせても、弱らせてもいけません。夜更かしは腎を損ね、飲み過ぎ食べ過ぎは脾を損ね、ストレスは肝を損ね、風通しの悪い家は肺を損ね、喜びのない人生は心を損ねます。現代社会は知らない間に人の五臓の調和を乱し、病の素地を作っているのです。