京都・漢方専門クリニック 

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第16話 夏の料理 〜和食に薬膳的効果〜

2006年7月21日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学16・薬味2.jpg 前回お話したように、今ごろの暑い時季には脾(消化器系)を冷やさないように気を付けることが大切です。

 とはいえ、夏には夏の涼しい料理があります。代表的なものに冷やしそうめん、冷ややっこがあります。ざるそばもそうですね。そうめん、豆腐、そばなどはそれ自体が体を涼しくする食材としての性質を持っている上に、冷やして食べるのですから暑さを和らげてくれます。

 ところで、皆さんは冷やしそうめんや冷ややっこに、おろしショウガやシソを載せていますか?ワサビ、ネギ、ミョウガでも構いませんよ。これらは薬味と呼ばれるように、味をおいしくするだけでなく生薬として加えているのです。

 冷やしそうめん、冷ややっこ、そばは取り過ぎると脾を冷やして気の生成を抑えます。(前回、蒸気機関車のボイラーの例えでお話しましたね)。また、脾に湿気が停滞して痰飲と呼ばれる粘った液体が生じることで、さまざまな病気の素地をつくる要因にもなります。

 ですから、冷やしそうめん、冷ややっこ、そばを食べても脾が冷えないように、また湿気が停滞しないように、これらの薬味を載せるのが和食の薬膳的一面です。おすし屋さんでガリ(ショウガ)と熱いお茶を出してくれるのも、生魚や冷たいシャリで脾を冷やさないための優しい配慮です。刺し身に付き物のワサビだけでなく大根やシソ、カツオのたたきのタマネギ、ニンニク、ネギも同様です。

 これらの薬味に共通する性質は辛味あるいは温性です。辛味には気の停滞を除く作用がありますから、冷えて蠕動が停滞しがちな胃腸を動かしてくれます。温性は冷えた脾を温めてくれるのです。冷たいものを食べたり飲んだりして下痢しやすい人は、体質的に脾が虚弱ですから、なおさら薬味は大切です。

 日本の風土は山川海それと水田です。乾燥した平原のある中国大陸や欧米の風土と異なり、日本では湿気に対応した食文化が伝統の中に息づいています。食も医学も伝統文化の中には、往々にして秘められた、あるいは、とっくの昔に忘れ去られた意味があると思います。

 冷やしそうめん、冷ややっこにはキュウリと卵は載せ忘れても構いませんが、薬味の一つか二つは載せてくださいね。それから、冷たい料理には必ず温かい料理、汁物や飲み物を合わせることも忘れずに。