京都・漢方専門クリニック 

【健康保険適応】 

 診察予約 075−352−3737


当院は中医学を専門とする日本人の漢方専門医が保険診療を行っています。

第31話 インドのおてんば娘 〜「ナニ、ユーテンネン」〜

2006年11月3日金曜日(高知新聞連載より一部改変)

イラスト 高知新聞社 提供   

中医学31・オッサン.jpg 外人さんと友達になるとなかなか楽しい経験ができますが、時にはハラハラすることもあります。もう十年以上前、当時私がいた医学部の研究室にインドから留学生のPさんがやってきました。彼女は私とは別の研究グループでしたが机は同室。英語は堪能ですが日本語が全くできない彼女は、独り浮いてしまって寂しそうでした。

 私と同じ研究グループの大阪人Zさんも私やPさんと同室でした。Zさんは医者にしておくのはもったいないほど吉本興業顔負けのユーモアと弁舌を持っていましたが、淋しそうな彼女を見て見ぬ振りはできない優しい男でもありました。「篠原先生、僕、Pに日本語教えたろと思てるんですわ。ただの日本語やったらおもろないさかい、大阪弁教えますわ。」とZさん。実験の合間に彼女を部屋に呼んで、今から日本語を教えるのでZさんが言うとおりに復唱するように英語で指示しました。淋しかった彼女も「OK!」と嬉しそう。私も隣で聴いていました。

 Zさんが最初に教えた日本語は、なんと「なに言うてんねん、おっさん。」でした。

”Repeat.”(繰り返して。)とZさんが促すと、「ナニ、ユーテネン、オッサア~~ン。」語尾が間延びして、しかも音程がインドの民族音楽みたいに微妙に揺らぐので可笑しくてZさんも私も思わず爆笑。青海苔のかわりにカレー粉をふりかけたタコ焼きみたいな大阪弁です。しかし、Pさんははじめて日本人と打ち解けることができたのが嬉しそうでした。Pさんの大阪弁は他の研究室でも大うけし、研究室の他の同僚も彼女を見かけると思わずニコッと微笑んでくれるようになって、彼女の表情が明るくなってきました。これでめでたしめでたしのはずでした・・・

 数日後、「あいつ廊下でも相手構わず、ナニ、ユーテンネン、オッサアン、言いよんねん」とZさん。「そらあ、皆が笑ろてくれるから嬉しいんやろ」と私。「けど、うっかり教授にでも言いよったら、僕があんな大阪弁教えたことバレバレでんがな。」とさすがのZさんも心配顔です。そこで、彼女を部屋に呼び私とZさんで彼女に言いました。

 “ナニ、ユーテンネン、オッサン is dangerous. Just within us. OK? ”(「なに言うてんねん、おっさん」は危ない言葉や。俺たちの間だけや。ええか?)

“OK”と彼女も納得し、私もZさんも胸を撫で下ろしました。以来、私とZさんは彼女のことをインドのおてんば娘と呼ぶようになったのです。