〜 疾患別の漢方治療 〜

下記の疾患以外でも漢方治療が良い場合もありますので、診察の際に医師に御相談下さい。

胃炎

慢性胃炎の病態と漢方治療について概説します。
胃炎のイラスト

 胃炎には急性胃炎と慢性胃炎があります。急性胃炎はストレス、消炎鎮痛剤の副作用、飲酒、暴飲暴食などによって起こる一時的な胃粘膜の炎症です。それらの原因を除去して適切な治療を受ければ速やかに治ります。漢方薬では半夏瀉心湯や黄連解毒湯など幾つかの処方があります。
 漢方治療を希望される胃炎の患者さんの多くは慢性胃炎に属する方だろうと思います。近年の研究で、慢性胃炎の大部分がピロリ菌という特殊な細菌によって起こることが分かってきました。胃粘膜は塩酸を分泌して強い酸性状態ですから普通の菌は生存できないのですが、ピロリ菌は自らアンモニア(アルカリ性)を作り出して、胃酸から身を守ってずっと居座り続けるのです。
 ですから、先ずは内視鏡検査で慢性胃炎と診断された方でピロリ菌感染が確認された方は、ピロリ菌の除菌療法を受けられることをお勧めします。(ピロリ菌保菌者は胃癌の発生率が数倍高まりまることもお勧めする理由の一つです。)この除菌療法にはプロトンポンプ阻害剤という胃酸を緩める薬に通常2種類の抗生物質を併用して行います。除菌率は95パーセント以上ですから確率は極めて高いです。ただ、問題はピロリ菌が除菌された後、胃粘膜の萎縮が必ずしも改善するとは限らず症状が持続する人がいます。このような患者さんには漢方治療をお勧めします。
 慢性胃炎の主症状として多いのは、みぞおちの不快感、膨満感、食欲不振などですが、患者さんによって証が異なります。胃の気が虚して食後に痞える場合(胃虚食滞)は枳朮丸や枳実消痞丸などの漢方薬で治療します。胃が潤いを失って動きが悪くなっている場合(胃陰虚)には沙参麦門冬湯や益胃湯などの漢方薬で治療します。食べても痩せたままで太れない人(脾気虚)には六君子湯や香砂六君子湯などが用いられます。


逆流性食道炎(胃食道逆流症,GERD)

逆流性食道炎(胃食道逆流症,GERD)の病態と漢方治療について概説します。

逆流性食道炎のイラスト

 食道と胃の移行部は噴門(ふんもん)といわれ、食物が食道を下ってくると噴門がスッと緩んで胃に流れ込みます。正常であれば、その後噴門がキュッと締まりますから、いったん胃に入った食物は食道に逆流することはないのです。ところが、この噴門の締まりの悪い人や、胃の動きの悪い人、過食や内臓脂肪がたっぷりついて腹腔内部の圧力が高まっている人、さらには食道裂孔ヘルニアのある人では、この逆流現象が起こってしまうのです。胃液は塩酸を含んでいて強酸性環境なのですが、食道粘膜はこの強酸性に耐えられられず、粘膜の炎症を起こし、胸やけや嚥下時の胸の痛みを自覚するようになるのです。
 消化器内科の治療ではH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤などを用いて胃酸を弱めます。これらの薬を飲んでいる間は胃酸が弱まるので、逆流は続いていても胸焼けは起こらないのです。しかし、薬をやめるとすぐ再発するということがしばしば見られます。また、服用して胸焼けが治まっても、胃酸があることでよく働く胃の消化機能自体が低下してしまい、逆に胃もたれやみぞおちの不快感を訴える患者さんもいらっしゃいます。そのような患者さんには漢方薬がよいと思います。(ただし、食道裂孔ヘルニアを基礎疾患として持っている患者さんに対する漢方治療の効果は必ずしも芳しくありません。)
 中医学的に逆流と食道の炎症を鎮める方法として辛開苦降(しんかいくこう)という治療方法があります。辛開とは辛味のある生薬(乾姜、半夏など)で胃の出口を開いてあげることを意味します。苦降とは苦みのある生薬(黄連、センブリなど)で逆流しようとする内容物を舌に降ろしてあげることを意味します。つまり下流のダムを放流して、上流の氾濫を流すというやり方です。代表的な漢方処方は黄連湯や半夏瀉心湯です。慢性の便秘がある人は腸内の宿便のために腹痛内圧が高まって逆流が酷くなりますから、便秘を解消する生薬や漢方薬を併用します。肥満解消のための食養生、食後すぐには横にならないなどの生活習慣の改善も必要となります。


潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に原因不明の炎症が起こり、下痢・血便をくり返す難病です。ほとんど無症状になる時期があったり、重篤になる場合もあったり、程度は様々です。

 中医学の観点からするとこの病気は実証と虚証に大別されます。実証の多くは大腸湿熱で湿邪と熱邪が一緒に大腸機能を傷害するので下痢や時に悪臭を生じ、邪熱が血分に及ぶと便血を生じます。代表的な漢方処方は白頭翁湯です。虚証の多くは脾気虚を背景にしたもので脾不統血という病態では、便血が見られます。帰脾湯など健脾益気・統血止血の漢方薬で治療します。個々の患者さんの証によって、性格の全く異なる漢方処方が必要になりますから、漢方専門医の診察を受けて処方してもらうようにして下さい。


過敏性腸症候群 (IBS)

過敏性腸症候群は腹痛に続いて下痢を繰り返す病気で、しばしば精神的緊張が誘因になります。下痢をした後は痛みが治まるのですが、症状が繰り返し起こるので困ってしまうのです。西洋医学のお薬で腸の働きを調整するものがありますが、効果は人さまざまです。

 中医学の観点からすると、大腸や小腸の気機(気の昇降出入の動き)の失調です。多くの場合背景に脾気虚や肝気鬱結があります。気の流れが順調になると、腸の動きも安定します。脾気虚が主体であれば小建中湯や桂枝加芍薬湯などの漢方薬で、肝気鬱結が主体であれば痛瀉要方や逍遥散などの漢方薬を中心に治療を行います。


慢性膵炎

 慢性膵炎の多くは長年の飲酒歴と関係しています。一部の患者さんには飲酒歴が無く原因がよく分からない特発性膵炎があります。女性ではアルコール性よりも特発性膵炎の方がむしろ多くなります。慢性膵炎の主な症状はみぞおちのあたりの痛み(心窩部痛)ですが、背中まで痛いという人もいます。飲酒や脂っこい食事の数時間後に起こりやすく、仰向けに寝ると痛みが増強するという特徴があります。慢性膵炎が進行するとむしろ痛みは軽減していって慢性下痢や糖尿病が現れてきます。暴飲暴食、ストレス、喫煙などで悪化しますから、日頃の養生も大切です。また、膵臓癌の発生率が高くなりますから、定期的にCTや超音波などの画像診断を受けていく必要があります。消化器内科的な治療は消化酵素薬や酵素阻害薬が中心になりますが、なかなか改善しない患者さんも少なくありません。

 膵臓の外分泌機能(消化酵素を腸に分泌し食物を消化する働き)と内分泌機能(インスリンなどのホルモン分泌による糖代謝)を補助すべく、漢方治療では消化を助け痛みを除くことを主眼とします。保和丸、枳実導滞丸、香砂六君子湯、柴芍六君子湯、半夏瀉心湯などといった漢方薬で証に応じて治療を行います。


慢性肝炎・肝硬変

慢性肝炎の原因と治療、漢方治療の意義などについて概説します。

 日本で慢性肝炎の多くはウイルスによるものです。ウイルス以外ではアルコール性、薬剤性(薬の副作用)や最近問題になっている非アルコール性脂肪肝炎があります。いずれにせよ、慢性肝炎を放置していると肝硬変や肝臓癌になる危険性があります。頻度的に多いウイルス性の慢性肝炎ではC型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスの二つが重要です。しかし、最近は新薬の進歩がめざましく、抗ウイルス療法が進歩してきたおかげで一部の患者さんではウイルスが消失して完治したり、完治とまでは行かなくても肝機能を安定させて肝硬変や肝臓癌への進展を抑えることが可能になってきています。従来インターフェロン療法には高額の医療費がかかり患者さんの負担になっていましたが、現在では行程医療助成制度があり都道府県が窓口になっています。このような現代医学の発展の恩恵は受けるべきです。
 これらの現代医学的な治療で効果が充分上げられない場合、あるいは副作用で治療を継続できない場合などは漢方治療の適応になると考えています。また、慢性肝炎に伴う諸症状(倦怠感、食欲不振、イライラなど)の改善を目的として漢方薬を併用することもあります。
 現代医学における肝臓と中医学(漢方医学)における肝とは必ずしも同じではありません。患者さんによって証は様々です。肝経湿熱証のように漢方的な肝に問題がある場合もあれば、脾虚寒湿証のように漢方的な肝以外が主病態のこともあります。証によって茵陳蒿湯、竜胆潟肝湯、茵陳朮附湯、補中益気湯などの漢方処方を中心に処方します。肝臓の繊維化がある場合は鼈甲、牡蛎、玄参などを併用します。


脂肪肝

最近の脂肪肝に対する認識と、漢方治療、食事療法と運動療法について概説します。脂肪肝に対する認識は一昔前と変わってきました。昔は肝臓に脂肪がたまるだけの簡単な病気と考えられていました。しかし現在では、一部の脂肪肝が慢性肝炎や肝硬変、さらには肝臓癌にまで進展する病気であるとの認識に至っています。定期的にエコーや血液検査を受けながら、食事と運動療法を積極的に行うことは漢方治療の有無にかかわらず大切です。

 漢方で脂肪肝を治療する場合には、肥満や内臓脂肪の蓄積を起こしやすい体質の改善を考えます。中医学的に脂肪蓄積と関係が深い病態は痰飲(たんいん)です。西洋医学でいう痰は気管支からの粘った分泌物ですが、中医学でいう痰とか痰飲は全身に生じる粘調な不消化物で、血管の中に生じたら動脈硬化を起こし、皮下組織に貯まったら皮下脂肪に、肝臓にたまれば脂肪肝というふうになります。痰飲の状態が長きにわたると、痰飲によって気血の巡行が妨げられるため、二次的に瘀血が生じてきます。この状態を痰瘀互結と言いますが、中医学的には脂肪肝炎から肝硬変、肝臓癌への進展と深くかかわっていると思います。
 
 痰飲を除くためには半夏、茯苓、枳実などといった生薬を用いますが、過食や早食い行動の背景にある胃熱を冷ますために黄連、竹筎、知母といった生薬を併用することが多くなります。胃熱がとれれば多くの場合、過食行動は軽減しますが、精神的ストレスが背景になっているいわゆるストレス食いでは、柴胡など別の生薬を併用する必要があります。
このように漢方薬で治療のサポートはできますが、何といっても食事療法と運動療法を行って、体重を減らして脂肪肝を改善することは必要です。脂肪肝という病名に惑わされて、脂肪(油)を食べないようにしたらいいと早合点しないようにして下さい。パン、菓子、ファーストフード、清涼飲料(糖を多量に含む)、ビールなどを控えることがより重要です。ご飯も小さい茶碗に軽く一杯までに抑えましょう。魚(ω-3系脂肪酸)やオリーブオイル(ω-9系脂肪酸)といった良質の脂肪はむしろ適度に摂取すべきす。肉類やサラダ油は(ω-6系脂肪酸)炎症を助長したり動脈硬化を促進し血流を悪くしますから、極力控えることをお勧めします。また、漢方の薬膳の観点から痰飲を除くには、キノコ類(シイタケ、えのき、しめじ等)や海藻類(昆布、ワカメなど)の摂取を普段から心がけることもお勧めします。


喘息(ぜんそく) 小児喘息

 喘息(気管支喘息)は気管支の慢性的な炎症を背景として、発作的に気管支の収縮を起こす病気です。発作時には喘鳴(ゼーゼー)や呼吸困難、咳痰を自覚しますが、非発作時はほとんど無症状です。カゼをひいた時や、睡眠不足、疲労などによって発作が起こりやすくなります。小児喘息は成長につれてだんだん治っていくことも多いのですが、一部は成人しても喘息が持続します。西洋医学的な治療方法はステロイドやβ刺激薬の吸入薬の他、テオフィリンなどの気管支拡張薬やロイコトリエン拮抗薬の内服薬が中心ですが根本治療ではありません。また、定量噴霧型の吸入薬についてはスペーサーを用いる正しい吸入法をちゃんと教わっていないために、十分な効果が出せていない患者さんも少なくありません。

 漢方医学の喘息の病態に関しては、古くから伏飲(ふくいん)という言葉が文献に記載されています。伏飲とは身体の奥深くに潜伏した痰飲(たんいん)のことです。痰飲とは病的な水分が長期に欝滞して粘ったものを指す中医学の概念で、さまざまな病気に関係しているのですが、喘息では痰飲が肺の奥深くの膈(横隔膜のこと)の付近に潜伏しているので伏飲といいます。ですから、非発作時には無症状で痰は出ませんが、発作が起こると喘咳と一緒に痰となってこみ上がってくるのです。発作を起こす引き金になるのはカゼ、寝不足、疲労、気候や気圧の変化、ホコリ、タバコの煙や排気ガスなどですが、実は病の根本要因はこの伏飲であり、伏飲が除かれない限り喘息は治らないわけです。
 ですから喘息の漢方治療の中心は伏飲を除くことを基本にします。半夏、茯苓、蒼朮、白朮などの生薬で少しずつ伏飲を除いていくと同時に、麻黄、杏仁、厚朴などで肺気の上逆を鎮めて呼吸を整えます。さらに、その患者さんに伏飲が生じた背景への配慮も必要で、肝や腎など他の臓腑に対応する生薬の配伍や、食生活の改善や生活リズムの改善を行います。
 喘息は一生にわたる養生が必要です。一時的に発作が治まる期間が続いても、気を緩めることなく日々の養生と自己管理を行っていく必要があります。


慢性気管支炎・気管支拡張症

 慢性気管支炎や気管支拡張症は持続的な気管支の炎症があるためドロドロした痰が多量にでる病気です。痰は黄色や緑色の膿性痰ことが多く悪臭を伴うこともあります。咳や息切れ、倦怠感、食欲不振などの症状も多く見られ、カゼをこじらせて症状が悪化します。西洋医学的には抗生物質、去痰薬、鎮咳剤などの内服薬治療が中心ですが、再燃をくり返します。

 中医学ではこのような多量の膿性痰と咳が続く病気を肺癰(はいよう)と呼んでいます。もともと痰が生じやすい背景が患者さんにあり、外部要因が加わって膿性痰が生じます。中医学には「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という言葉があるように、肺癰の多くの患者さんで脾気虚という消化器系統を中心とした虚弱体質がありますから、漢方処方上この点も配慮して治療します。肺癰の代表的な処方は葦茎湯(いけいとう)ですが、患者さんの体質や症状によって更に生薬を加減して処方します。


肺気腫

喉には気管が通っています。気管は左右の気管支に分かれてそれぞれ左肺と右肺につながり、更にどんどん分岐していって最終的に肺胞という非常に小さい空気の部屋(袋)に至ります。ここで空気中の酸素を血液中に取り込み、血液中の二酸化炭素を肺胞内に放出します(ガス交換)。肺気腫ではほとんどの場合長年の喫煙が原因でこの肺胞の壁が破壊されていって、隣の肺胞と繋がってしまいます。さらに壁がどんどん壊れていくと微細は部屋が大きな風船状の空間に置き換わっていきます。中に空気の入った風船(気腫)が肺の中を樹木の枝のように通っている細い気管支(空気のダクト)を圧迫してしまうために、気管が狭くなるのです。すると吸った空気を充分吐き出せなくなって、さらに肺に空気がたまり肺全体が膨張していくわけです。ですから、肺気腫が酷くなると胸全体がビール樽のように張り出してきます。

 肺気腫の主症状は息切れです。痰を伴うこともありますが、慢性気管支炎や気管支拡張のように多量にでることはありません。むしろ少痰や無痰のことが多く、喉にしつこく痰が絡んだような違和感が続く人もいます。肺気腫の呼吸機能の低下は徐々に進行していきますから病状の酷さの割には症状が軽く、息切れを自覚するようになった頃には既に呼吸機能は相当悪くなっている場合が多いのです。検診などで早期に診断されて禁煙ができれば軽症で済むのですが、程度によっては在宅酸素療法を行い、自宅で酸素を吸って生活をすることになります。
 肺気腫に対する漢方治療の主目標は、息切れを改善して日常生活を楽に送れるようにすることです。残念ながら漢方薬でも破壊された肺胞を元に戻すことはできません。多くの場合、肺腎を中心に消耗していますので、黄耆、人参、麦門冬などで肺の気陰を補い、五味子、熟地黄、蓮肉などで補腎納気を行います。息切れが強い場合には木防已湯加減を併用して肺気の昇降を整えたり、燥痰(絡んでなかなか切れない痰)がある場合には貝母、栝呂仁、沙参などで肺を潤しながら去痰します。また、肺気腫の患者さんはしつこい便秘をともなうこともしばしばです。お通じを整えることも重要ですので、漢方処方でも配慮します。


花粉症

花粉症の漢方治療について解説します。

スギ花粉のイラスト
スギやヒノキの花粉を吸って花粉症が起こる人と、起こらない人がいます。また、花粉症は主にⅠ型アレルギー反応が関与しているとされていますが、Ⅰ型アレルギーの指標とされる血中IgEといわれる免疫物質の値が高くても症状は軽い人もいますし、逆にIgEの数値が低いのに症状の重い人もいます。この個人差は何に由来するのでしょうか。まだ現代医学的にもこの個人差の原因については十分明らかになっていません。

 それでは漢方医学的にこの個人差はどう解釈されるのでしょうか。花粉症の患者さんの漢方診療に従事してきて、最近あることに気が付きました。手足末端がただただ冷えやすい患者さん(陽虚肢冷)と、冷えはあるけれども火照りやのぼせの様な熱証を伴う患者さん(寒熱錯雑)では、奏功する漢方処方が全く異なることです。一部の患者さんはこのどちらにも属さない陰虚陽亢や血虚生風のタイプですが、8-9割の患者さんが陽虚肢冷あるいは寒熱錯雑に属するようなのです。
花粉症のイラスト
 陽虚肢冷、つまり陽気が少なく手足まで達することができないために手足が常に冷える患者さんの花粉症はなぜ起こるのでしょうか。このような患者さんでは気の通路としての皮膚や脈が通じ難くなっている(だから手足が冷えるのですが)ために、行き場を塞がれた陽気が顔面に向かって氾濫してくることで、鼻や目にアレルギー性の炎症が起こるのだと解釈しています。この時、スギやヒノキの花粉は原因ではなく、(陽気の氾濫を顔面部に誘導するための)誘因に過ぎません。本質的な問題は、花粉よりも患者さんの身体にあります。陽気の氾濫は痰飲(普段からの菓子パン、乳製品、冷飲冷食などで形成されます)を伴って上昇してくるので、鼻水や涙(漢方的には痰飲)が溢れ出てくることになります。治療は陽気の疏通を改善させて手足など全身に満遍なく陽気を供給することで、顔面への陽気の氾濫を治めることです。桂姜棗草黄辛附湯を主体として、個々の患者さんの特徴に配慮して加減して処方します。処方が合っていると速効性があり、しばしば翌日やその日のうちから症状が改善します。

 一方、寒熱錯雑の患者さんでは、手足は冷える(寒証)けれども顔面や上半身が火照るなどの症状(熱証)が併存しています。このような患者さんには上述の様な処方は全く効きません。冷えと熱と両方に対処しながら、顔面への虚火の上攻を鎮める必要があります。烏梅丸や封髄丹を主体として適宜加減して処方します。花粉症といっても人それぞれ病態が異なりますから、やはり漢方的な証に基づいて処方を決める必要があるのです。
 アレルギーの体質を改善するための食養生も大事です。当院のHPからダウンロードできますのでご活用下さい。


関節リウマチ

 リウマチには漢方治療が効果的です。まだ関節変形に至っていない軽症の患者さんでは比較的早期に疼痛や腫れを改善することが出来ます。既に指などの関節が変形してしまっている場合は、関節変形を元通りにすることは出来ませんが、疼痛を軽減させて日常生活の質を改善することに漢方治療の主眼を起きます。

 リウマチに代表される慢性の運動器(関節など)の疼痛を主体とする疾患を中医学の専門用語では痺症(ひしょう)と言います。痺症には痛痺(つうひ)、行痺(こうひ)、着痺(ちゃくひ)、熱痺(ねつひ)、尪痺(おうひ)があり、それぞれに病態と治療が異なります。実際にはこれらが混在している複雑な病態の患者さんが多くいらっしゃいます。漢方専門医の診察によって判断し、処方を決めます。

【痛痺(つうひ)】

 寒邪(かんじゃ)によって経絡が凝滞して気が巡らなくなり、強い痛みを生じます。冷えると悪くなるので患者さんは寒がりの人が多く、スーパーなどの買い物でも冷凍食品売り場には近づくのが嫌だという方もいらっしゃいます。
 治療は漢方薬で経絡を温め、寒邪を発散して除きます(散寒止痛)。附子、桂皮、細辛といった温めて経絡を疏通させる生薬を中心に配伍します。

【行痺(こうひ)】

 風邪(ふうじゃ)が経絡に入り気の疏通を傷害することで痛みます。痛む部位があっちこっち移動するのが特徴です。「昨日は右手が痛かったのに、今日は左肘が痛い・・・」といった感じです。
 治療は漢方薬で風邪を除きます(去風止痛)。防風、羗活、威霊仙といった去風作用のある生薬を中心に配伍します。

【着痺(ちゃくひ)】

 湿邪(しつじゃ)が経絡を阻滞して、気血が通じなくなって痛みを生じます。常に同じ部位が痛む固定性疼痛が特徴です。また、雨天や雨天前日、低気圧や台風接近時に痛みが強くなるという訴えもよくあります。
 治療は漢方薬で湿邪を除きます(去湿止痛)。蒼朮、薏苡仁、防已といった去湿作用のある生薬を中心に配伍します。湿邪に熱邪を伴っている患者さんは湿熱痺といい、更に黄柏、山帰来などを配伍します。

【熱痺(ねつひ)】

 熱邪(ねつじゃ)が経絡を阻滞するタイプですが、元々は上述の寒邪、風邪、湿邪などが長期間欝滞した結果、化熱して生じる場合も少なくありません。関節の熱感、発赤、腫脹が特徴で、触れると酷く痛みます。
 治療は漢方薬で邪熱を冷まします(清熱止痛)。金銀花、忍藤、知母、石膏などの清熱瀉火の作用のある生薬を中心に配伍します。激しい炎症が治まってきたら、背景となっている他の邪気や併存する瘀血や痰飲などを処理する処方に変更します。

【尪痺(おうひ)】

 複数の邪気が長年にわたって経絡を塞ぎ、更に瘀血(血の停滞)と痰飲(水の停滞と粘稠化)が併存した痰瘀互結の病態で生じます。関節が破壊されて変形や拘縮がみられるのが特徴です。「尪」という漢字は「脚が曲がっている」という意味で、歩行が不自由になっていることを表しています。尪痺の患者さんはしばしば体力的にも消耗しており、気血両虚や腎精虧損が併存しています。病態は複雑で治療は難しく、変形した関節を元に戻すことは出来ません。ただ、じっくり時間をかけて治療を続けることにより痛みを軽減し日常生活を改善させることは可能です。
 尪痺の治療は複雑で、その患者さんの証によって処方は異なりますが、通絡止痛作用のある動物性生薬が必要になる場合が少なくありません。


シェーグレン症候群

 シェーグレン症候群は唾液分泌や涙液分泌が減少するために、口内の乾き目の乾燥(ドライアイ)を自覚する膠原病の一種です。リウマチや全身性エリテマトーデスなど他の膠原病を合併することもあります。唾液分泌が減るので、パンやクッキーは飲み物なしではパサパサして噛んだり飲み込んだりしにくくなります。味覚異常を伴うこともあります。また、歯が乾燥するので虫歯ができやすくなります。涙液分泌が減りますから、目は常に乾燥した状態になって、目のゴロゴロ感や痛みを感じます。酷くなると角膜が傷ついて視力障害を起こすこともあります。西洋医学的な治療は対症療法しかなく、人工涙液の点眼や人工唾液の口腔内スプレー噴霧が行われています。

 むしろこの病気は漢方治療が根本治療に近いのです。シェーグレン症候群の多くは陰虚証といわれる状態で、臓腑を中心とした津液(しんえき)の欠乏状態があります。津液とは中医学の専門用語で、人体の生理的な水分のことで滋潤の働きがあります。麦門冬、干地黄、玄参、葛根などの生薬でこの津液を補充する方法(滋陰潤燥法)を用います。しかし、より根本的には、このような陰虚体質が生じる個々の患者さんの問題点を中医学的にもう一層深く検討し、より本質的な個別的漢方治療を考えていきます。


坐骨神経痛

 坐骨神経の走行部位に沿って下肢に痛みを感じます。椎間板ヘルニアや梨状筋というお尻の筋肉に神経が圧迫されたり、高齢者では加齢による腰椎の変性が要因になるケースが多いのです。

 漢方では独活、威霊仙、牛膝などをよく使用しますが、瘀血、腎精虧虚、風湿など患者さんの証によって処方は異なります。整形外科的治療やペインクリニックの治療で効果が得られなかった患者さんでも、坐骨神経痛を緩和できることは多いのです。何年にも及ぶ神経痛では治療効果が現れるのに数ヶ月程度かかることもありますが、あきらめなくてもよいのです。


帯状疱疹後神経痛

 帯状疱疹はヘルペスウイルスによって起こります。(唇の周りにできるヘルペスとはウイルスの種類が少し異なります。)帯状疱疹ができれば早急に抗ウイルス剤の点滴、あるいは内服による治療を行わないと、発疹が消えた後に後遺症として神経痛が残ってしまいます。

 この後遺症の痛みに多くの患者さんが何年も何十年も苦しんでいます。ペインクリックの治療を受けながらでも差し支えないので、できるだけ早期に漢方治療を開始されることをお勧めします。早く治療を開始するほど回復も早いからです。
 漢方治療では通絡(つうらく)という方法を用います。経絡の奥深い所に入った風湿邪やそこから二次的に派生する瘀血や痰飲に対して、通絡作用がある一連の生薬群を配伍します。通絡の生薬にもさまざまあり、患者さんの証によって使い分けます。一気に痛みが無くなることはありませんが、根気よく治療を続ければ、徐々に痛みが軽減していきますので、自然とよく体を動かしているようになります。


カゼ(風邪)

カゼの漢方医学的な病態と治療について概説します。

 カゼは漢字で風邪と書きますが、中医学では「ふうじゃ」と読みます。風邪(ふうじゃ)とは六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)の一つです。六淫は外因といって人体の外から襲ってきて病気を起こす原因となるものです。本当はカゼといっても、風邪以外の寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪(熱邪・温邪)によって起こるものもあるわけですが、筆頭格の風邪を取ってカゼと読ませているわけです。
 ですから六淫の種類によってカゼの病態や症状は全く異なり、その結果としてカゼの処方も違ってきます。また同一の邪気であっても、カゼの進行度によって病態、症状、処方は異なってきます。このように、漢方のカゼの治療は実は簡単ではありません。「カゼには葛根湯」などといわれますが、葛根湯が適応になるカゼは風寒邪気(風邪と寒邪がセットになったもの)のごく初期であって、他のカゼには他の処方が用いられることになります。西洋医学の感冒薬と異なり、漢方のカゼの処方は狙いを定めた治療ですから的を得れば即効性があります。
 一般に強い悪寒を伴うようなカゼは傷寒(しょうかん)と呼ばれ、寒邪や風邪が主体です。初期であれば葛根湯や麻黄湯、桂枝湯などが即効します。しかし、春や夏のカゼは、悪寒が無いかわずかで、すぐ喉が痛くなったり、咳が出たりします。このようなカゼの多くは温病(うんびょう)と呼ばれ、火邪(温邪、熱邪)や湿邪(湿温病)、燥邪、暑邪が原因となります。罹患初期であれば銀翹散、三仁湯、藿朴夏苓湯、桑杏湯、新加香薷飲などの処方で治療します。カゼをこじらせた場合は邪気は既に身体の奥に入っていますので、処方も変わってきます。このようにカゼの漢方治療は非常にダイナミックで漢方医としての熟練を要するものなのです。


白内障

白内障の漢方医学的な病態と治療について概説します。

 先の鼻水の項目でお話ししたように、中医学的には鼻は肺と関係が深い器官です。ですから、鼻づまりも肺の病証として治療することが多いのです。肺は気の動き(気機といいます)に対して、宣発と粛降という2つの相反する動きをします。
 中医学の臓象学説では「肝は目に開竅(かいきょう)する」と言います。五臓(肝心脾肺腎)のうち肝の働きが目に現れるという意味です。特に肝血虚という状態では、目の滋養が足りなくなりかすみ目、眼精疲労、眼の奥の痛みといった症状を起こします。しかし、白内障は瞳孔の部分にある水晶体の混濁であり、肝だけでなく腎の衰弱と関係が深く、多くは肝腎不足といわれる病態です。肝腎の不足は健常者でも年をとるにつれて徐々に進んでいく老化の過程でもあるのですが、患者さんによっては実年齢より早く進んでいくのです。
 治療の主体は補腎養肝明目で熟地黄、山茱萸、五味子などで補腎し、枸杞子、抗菊花などで養肝明目します。代表的な処方は杞菊地黄丸です。煎じ薬にすれば健康保険で処方できます。証によっては右帰丸や補中益気湯加減などで治療することもあります。ただし即効性は期待できません。長期服用して徐々に改善するか、あるいは進行を防ぐことを目指します。


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